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Bリーグ選手統一契約書の解説(後半)

Bリーグが作成しているクラブと選手との間の統一契約書(2021年シーズンのもの)の解説の後半です。
なお、Jリーグが作成している統一契約書の内容と同じ内容の部分が多く、Jリーグの統一契約書を元に作成されたものと思われます。

第1条〔誠実義務〕
第2条〔履行義務〕
第3条〔禁止事項〕
第4条〔報酬〕
第5条〔費用の負担〕
第6条〔休暇〕
第7条〔疾病および傷害〕     以上、前回解説
第8条 〔選手の肖像等の使用〕  以下、今回解説
第9条 〔クラブによる契約解除〕
第10 条 〔選手による契約解除〕
第11 条 〔制 裁〕
第12 条 〔有効期間および更新手続き〕
第13 条 〔修 正〕
第14 条 〔準拠法〕
第15 条 〔紛争の解決〕
第16 条 〔保 管〕

第8条〔選手の肖像等の使用〕
(1)  本契約の義務履行に関する選手の肖像、映像、氏名等(以下「選手の肖像等」という)を報道・放送において使用することについて、選手は何ら権利を有しない。
(2)  選手は、クラブから指名を受けた場合、クラブ、協会およびリーグ等の広告宣伝・広報・プロモーション活動(以下「広告宣伝等」という)に原則として無償で協力しなければならない。
(3)  クラブは、選手の肖像等を利用してマーチャンダイジング(商品化)を自ら行う権利を有し、また協会、リーグその他の第三者に対して、その権利を許諾することができる。
(4)  選手は、クラブの指示に拠らずに次の各号のいずれかに該当する行為を行おうとするときは、事前にクラブの書面による承諾を得なければならない。
① テレビ・ラジオ番組、イベントへの出演
② 選手の肖像等の使用およびその許諾(インターネットを含む)
③ 新聞・雑誌取材への応諾 ④  第三者の広告宣伝等への関与
(5)  第3項において、選手個人単独の肖像等を利用した商品を製造し、有償で頒布する場合、および前項各号の場合の対価の分配は、クラブと選手が別途協議して定める。
(6)  第1項、第3項および第5項の規定は、本契約期間の満了又は終了後であっても、本契約期間中の選手の肖像等が使用される場合に限り、当該使用との関係ではなお有効に存続するものとする。 

第8条は、選手の肖像権等に関して定めており、第1項から第3項ではクラブが選手の競技活動に関連する肖像権を管理する権限を有しており、選手がクラブの広告宣伝に協力しなければならないことを定めています。
また、第4項では選手がマスコミ等の取材に対応するのにも、事前の書面の承諾が必要とされていますが、これだけSNSが発展してきた現在では、現実に即した内容とはいえないでしょう。
なお、選手も、クラブ所属の選手である前に一個人ですので、選手の私的な活動に制約が及ばないのは当然です。昨今では、この私的な活動であるのか競技に関連する活動であるのかといった点が、あいまいな場面が多くなってきています。
Jリーグの統一契約書と比較すると第6項が追加されており、契約終了後でも、クラブが選手の肖像等を使用することができるとされています。クラブとしては、過去の練習等の映像(当然、契約が終了した選手も映っています)を自由に使えるということになっています。
なお、Jリーグの統一契約書に記載されていないとしても、Jリーガーの皆さんとしても、所属期間中の肖像については自由に使われることを容認していたと推認されますので、Jリーグのクラブも同様に過去の肖像等を使うことは認められると思われます。
もっとも、公開されることにより一般人であれば精神的苦痛を感じるような映り方をしてる肖像等をクラブが無断で利用した場合に、クラブが一切責任を負わないかというと、別問題であると思われます。

第9条〔クラブによる契約解除〕
次の各号のいずれかに該当する事由が選手において発生した場合、クラブは、選手に対し書面で通知することにより、本契約を直ちに解除することができる。なお、第4号または第5号の薬物検査が本契約締結後選手登録前に行われるものであったときは、クラブは、選手に対して本契約に基づき既払いの報酬の一切の返還を求めることができる。
①  本契約の定めに違反した場合において、クラブが改善の勧告をしたにもかかわらず、これを拒絶または無視したとき
②  疾病または傷害によりバスケットボール選手としての運動能力を永久的に喪失したとき
③  刑罰法規に抵触する行為を行ったとき
④  協会およびリーグの指定する薬物検査の受検を拒絶したとき
⑤  協会およびリーグの指定する薬物検査において、陽性結果が確定したとき
⑥  自らの責に帰すべき事由により、6ケ月以上の試合出場停止処分を受けたとき
⑦  クラブの秩序風紀を著しく乱したとき
⑧  協会のアンチ・ドーピング規程に違反したとき 

第9条は、クラブの側から、選手との契約が解除できる場面が定めています。
昨今、いわゆる不祥事が起きた場合にこの条文により契約が解除されています。
但し、「刑罰法規に抵触する行為を行ったとき」というのは、本来、裁判所で判決が確定しない限り明らかにならないはずですので、逮捕された時点で、契約を解除するというのは適切はありません。
また、「クラブの秩序風紀を著しく乱したとき」というのは極めて抽象的な表現であり、解除可能な場合が不明瞭です。例えば、私生活の行動について炎上した場合等に、直ちにこれらの規定によりクラブ側が容易に契約を解除できると考えることには、疑問があります。

なお、Jリーグの統一契約書と比較すると、ドーピングに関する条項が追加・明記されています。

第 10 条 〔選手による契約解除〕
(1)  次の各号のいずれかに該当する事由がクラブにおいて発生した場合、選手は、クラブに対し書面で通知することにより、本契約を直ちに解除することができる。
①  本契約に基づく報酬等の支払いを約定日から14日を超えて履行しないとき
②  協会およびリーグが出場を義務付ける試合に正当な理由なく連続して3試合以上出場しなかったとき
③  リーグから除名されたとき
(2)  前項に基づき本契約を解除した選手は、本契約の残存期間分の基本報酬を受け取ることができる。 

第10条は、選手の側からクラブとの契約を解除できる場面を定めています。報酬(いわゆる選手の給料)が14日支払いが遅れると直ちに契約を解除できるとされていますので、この点は、選手の権利が十分に守られています。

第 11 条 〔制 裁〕
選手につき次の各号のいずれかに該当する事由が発生した場合、クラブは、選手に対し、戒告もしくは制裁金またはこれらの双方を課すことができる。
①  出場した試合において警告、退場または出場停止の処分を受けたとき
②  クラブの指示命令に従わなかったとき
③  クラブの秩序風紀を乱したとき
④  刑罰法規に抵触する行為を行ったとき
⑤  協会およびリーグの指定する薬物検査の受検を拒絶したとき
⑥  協会およびリーグの指定する薬物検査において、陽性結果が確定したとき
⑦  協会のアンチ・ドーピング規程に違反したとき 

第11条には、クラブが選手にいわゆる罰金を科したりすることができる場合が定められています。
なお、Jリーグの統一契約書と比較すると、ドーピングに関する条項が追加・明記されています。

第 12 条 〔有効期間および更新手続き〕
(1)  本契約の有効期間は、___年___月___日から___年___月 ___日までとする。
(2)  クラブは、契約更新を行う場合、リーグの規程に定められた期限までに、選手に対し更新に関する通知を書面により行わなければならない。
(3)  前項の通知を怠った場合、クラブには契約を更新する意思がないものとみなし、選手はクラブに対し、自由交渉選手リストへの登録を請求することができ、クラブはこれに応じなければならない。 

第12条は、クラブが契約を更新するかどうか決めるのを引き延ばすことにより、選手の移籍の機会が奪われてしまうことがないように、クラブが契約を更新できる期限が定められています。

第 13 条 〔修 正〕
本契約は、クラブおよび選手の署名または押印ある文書によってのみ修正され得るものとし、口頭による修正は効力を持たないものとする。
第 14 条 〔準拠法〕
本契約は、日本法によって解釈されるものとする

第13条及び第14条は、クラブと選手間の契約に限らず、一般的な契約でもよく定められている、契約内容を変更する場合には書面によること、日本の法律に従って契約を解釈することが定めています。

第 15 条 〔紛争の解決〕
① 本契約の解釈または本契約の履行に関してクラブと選手との間に紛争が生じたときは、クラブおよび選手が、その都度、誠意をもって協議の上解決する。
② 前項の協議を申し入れた後 30 日を経過しても紛争が解決しないときは、クラブまたは選手は、リーグ等または協会の規程の定めにより、リーグ等または協会に紛争解決を求めることができる。

第15条は、選手とクラブの間で紛争になった場合に、協議の上、Jリーグが定めるルールに従って紛争解決を図ることを定めています。
もっとも、そもそも、選手の契約期間は一般的に短い以上、クラブと紛争になると、それ以降、契約を更新してもらえないという不利益を被ることが容易に想定されますので、選手の側からクラブへ様々な要求を通していくのには困難な面があります。

第16条〔保管〕 本契約書は同時に正本2通を作成し、クラブの代表者及び選手が署名し、それぞれ1通ずつを保管する。

契約書の作成及び保管の方法について、定めています。
コロナウィルスの感染拡大化においては、直接の面談はクラブにとってリスクともなりうるところであり、多くの企業で導入され始めている電子契約の仕組を積極的に導入する方向で進むべきだと考えます。

以上

 

Bリーグ選手統一契約書の解説(前半)

Bリーグが作成している、クラブと選手との間の統一契約書の内容を解説します。
なお、Jリーグが定める統一契約書の内容と同じ内容の部分が多く、Jリーグの統一契約書を参考に作成されたものと思われます。

第1条〔誠実義務〕
第2条〔履行義務〕
第3条〔禁止事項〕
第4条〔報酬〕
第5条〔費用の負担〕
第6条〔休暇〕
第7条〔疾病および傷害〕

第1条〔誠実義務〕
(1) 選手は、公益財団法人日本バスケットボール協会(以下「協会」という)、
クラブが所属するリーグおよび連盟(以下単に「リーグ」という)およびクラ
ブの諸規程・諸規則を遵守し、本契約を誠実に履行しなければならない。
(2) 選手は、プロ選手として自己の全ての能力を最大限にクラブに提供するため、
常に最善の健康状態の保持および運動能力の維持・向上に努めなければならな
い。
(3) 選手は、プロ選手として公私ともに日本バスケットボール界の模範たるべき
ことを認識し、日本バスケットボールの信望を損なうことのないよう努めなけ
ればならない。

選手がBリーグ等が定めるルールに従わなければならないこと、その他、プロとしてもつべき心構え等について、定められています。

第2条〔履行義務〕
 選手は、次の各事項を履行する義務を負う。
① クラブの指定する試合への出場
② クラブの指定するトレーニング、合宿および研修への参加
③ クラブの指定するミーティング、試合の準備に必要な行事への参加
④ クラブにより支給されたユニフォーム一式およびトレーニングウェアの使用
⑤ クラブの指定する医学的検診、注射、予防処置および治療処置への参加
⑥ クラブの指定する広報活動、ファンサービス活動及び社会貢献活動への参加
⑦ 協会から、各カテゴリーの日本代表選手に選出された場合のトレーニング、合宿および試合への参加
⑧ 協会およびリーグの指定するドーピングテストの受検
⑨ 協会およびリーグの指定する薬物検査の受検
⑩ 合宿、遠征等に際してのクラブの指定する交通機関、宿泊施設の利用
⑪ 居住場所に関する事前のクラブの合意の取得
⑫ 副業に関する事前のクラブの同意の取得
⑬ その他クラブが必要と認めた事項

選手が、クラブの指定する試合その他、クラブが指定する活動に参加しなければならないことが定められています。「副業に関する事前のクラブの同意の取得」というのが、例えばYouTube上での活動等まで及ぶとすると、かなり広範に及ぶことになります。
Jリーグの統一契約書と比較すると、「⑨ 協会およびリーグの指定する薬物検査の受検」が追加されており、薬物検査に関して、より厳密な記載ぶりとなっています。

第3条〔禁止事項〕
 選手は、次の各事項を行ってはならない。
① クラブ、協会およびリーグの内部事情の部外者への開示
② 試合およびトレーニングに関する事項(試合の戦略・戦術・選手の起用・トレーニングの内容等)の部外者への開示
③ 協会のアンチ・ドーピング規程に違反する行為
④ クラブ、協会およびリーグの承認が得られない広告宣伝・広報活動への参加または関与
⑤ 本契約の義務履行の妨げとなる第三者との契約の締結
⑥ クラブの事前の同意を得ない、第三者の主催するバスケットボールまたはその他のスポーツの試合等への参加
⑦ 試合の結果に影響を与える不正行為への関与
⑧ その他クラブ、協会およびリーグにとって不利益となる行為

選手が、公正に試合参加できるように、内部事情を公開することの禁止といった内容が定められています。

第4条〔報酬〕
 クラブは選手に対し、次の報酬を支払う。ただし、当該報酬には、消費税を除く、所得税、住民税その他一切の税金を含むものとする。
(1) 基本報酬
 ・総額 金___________円( ケ月分)
 (月額 金___________円 ただし、_月は__円)
(2) 変動報酬、その他の報酬についてはクラブと選手が別途合意した基準による。
(3) 前2項の報酬は、クラブと選手とが別途合意する支払期日に従って、適用される消費税を加算して、選手の指定する選手名義の銀行口座に振り込んで支払うものとする。

第4条は、報酬の金額等を記載する条項で、原則として毎月支払うことが想定された内容となっています。

第5条〔費用の負担〕
 選手がクラブのために旅行する期間の交通費および宿泊費はクラブが負担する。

クラブが選手のための交通費、宿泊費等を負担することが定められています。

第6条〔休暇〕
 選手は、競技シーズン終了後に連続して2週間以上の休暇を取得することができる。ただし、選手は、休暇を休養の目的に利用しなければならない。

選手がシーズン終了後に、2週間連続した休暇を取得できることが定められています。

第7条〔疾病および傷害〕
(1) 選手は疾病または傷害に際しては速やかにクラブに通知し、クラブの指示に
従わなければならない。
(2) 本契約の履行に直接起因する選手の疾病または傷害につき、クラブの指定す
る医師が治療ないし療養を必要と認めた場合、その治療に要する費用は、社会
保険の自己負担分に限りクラブが負担する。
(3) 前項の疾病または傷害により、選手が一時的に競技不能となった場合、クラ
ブは、その競技不能の期間中、基本報酬を支払わなければならない。ただし、競技不能の期間中に本契約が期間満了その他の理由により終了したときは、こ
の限りでない。

選手が怪我をした場合には、クラブの指示に従う必要があること等が定められています。

第8条以降は、後半に続きます。

日本野球連盟(NPB)統一契約書の解説(後半)

日本野球連盟(NPB)統一契約書(2018年版)の後半部分の解説です。

(15条より前は、前半で解説済みです)

tanakalaw.hatenablog.com


第16条(写真と出演)
第17条 (模範行為)
第18条 (利害関係)
第19条(試合参稼制限)
第20条(他種のスポーツ)
第21条(契約の譲渡)
第22条(報酬不変)
第23条(出頭)
第24条(移転費)
第25条(選手による契約解除)
第26条(球団による契約解除)
第27条(ウエイバー酬)
第28条(解約と報酬)
第29条(協約と裁決)
第30条(紛争)
第31条(契約の更新)
32条(参稼報酬調停)
第33条(保留手当)
第34条(承認)
第35条(任意引退選手)

第16条(写真と出演)
球団が指示する場合、選手は写真、映画、テレビジョンに撮影されることを承諾する。なお、選手はこのような写真出演等にかんする肖像権、著作権等のすべてが球団に属し、また球団が宣伝目的のためにいかなる方法でそれらを利用しても、異議を申し立てないことを承認する。なおこれによって球団が金銭の利益を受けるとき、選手は適当な分配金を受けることができる。さらに選手は球団の承諾なく、公衆の面前に出演し、ラジオ、テレビジョンのプログラムに参加し、写真の撮影を認め、新聞雑誌の記事を書き、これを後援し、また商品の広告に関与しないことを承諾する。

球団が指示して行った選手の写真、動画撮影等に関しては、全て球団に権利が帰属することとされています。また、選手が公衆の面前に出演する際や新聞雑誌の記事を書く場合等、全て球団の承諾が必要とされています。
もっとも、当該規定をつくった当時には想定されていなかったSNS等の発展により、どこまで選手が自由に発信してもよいかということについては、色々な考え方がありうるところです。

第17条(模範行為)
選手は野球選手として勤勉誠実に稼働し、最善の健康を保持し、また日本プロフェッショナル野球協約、これに附随する諸規程ならびに球団の諸規則 を遵守し、かつ個人行動とフェアプレイとスポーツマンシップとにおいて日本国民の模範たるべく努力す ることを誓約する。

選手が、フェアプレイ・スポーツマンシップの精神を大事にすることが記載されています。

第18条(利害関係)
選手は日本プロフェッショナル野球協約に認容される場合のほか、日本プロフェッショナル野球組織に所属するいずれかの球団にたいし、直接または間接に株式を持ち、あるいは金銭的利害関係を持っていないこと、また今後持たないことを誓約する。

八百長等を防止する観点から、選手が球団を保有している会社の株式を持つこと等を禁止しています。

第19条(試合参稼制限)
選手は本契約期間中、球団以外のいかなる個人または団体のためにも野球試合に参稼しないことを承諾する。ただし、コミッショナ ーが許可した場合はこの限りでない。

第20条(他種のスポーツ)
選手は相撲、柔道、拳闘、レス リングその他のプロフェッショナル・スポーツと稼働について契約しないことを承諾し、また球団が同意しない限り、蹴球、籠球、ホッケー、軟式野球その他のスポーツのいかなる試合にも出場しないことを承諾する。

 選手がプレーに集中するという観点から、球団の指定する以外の場所で野球をしたり、他のスポーツをすることを禁止しています。「拳闘」「蹴球」等、随分昔に作った文章がそのまま残っている様子がうかがわれます。

第21条 (契約の譲渡)
選手は球団が選手契約による球団の権利義務譲渡のため、日本プロフェッショナル野球協約に従い本契約を参稼期間中および契約保留期間中、日本プロフェッショナル野球組織に保留期間中、日本プロフェッショナル野球組織に属するいずれかの球団へ譲渡できるこ属するいずれかの球団へ譲渡できることを承諾する。
第22条(報酬不変)
本契約が譲渡されたとき本契約書第3条に約定された参稼報酬は契約譲渡によって、その金額を変更されることはない。

球団側でトレードを自由に行うことができること、トレードされた場合であっても、その年の年俸が変わらないことが定められています。

第23条 (出頭)
選手は球団から契約譲渡の通知を受けた場所が、譲り受け球団の本拠地から鉄道による最短距離が1000キロメートル以内の場合は、通知を受けた日から4日以内に譲り受け球団の事務所へ出頭することを承諾する。なおその距離が1000キロメートル以上の場合は300キロメートルを増すごとに1日が追加される。
もし選手が、その日限に出頭を怠ったときは、1日遅れるごとに第3条の参稼報酬の金額の300分の1に1に相当する金額の報酬を受ける権利を喪うことを承諾する。
第24条(移転費)
本契約が譲渡されたため選手が転居した場合、球団は選手にたいして本契約が譲渡されたため選手が転居した場合、球団は選手にたいして移転費とし移転費として200万円て200万円に消費税及び地方消費税を加算した金額に消費税及び地方消費税を加算した金額を支払う。

選手がトレードした時の取り扱いが定められています。
23条については、かなり昔に作られた条文だと思われますが、トレードの通知を受けた場所から、トレード先球団の本拠地までの最短距離が1000キロメートル以内の場合には4日以内に、トレード先球団の本拠地に行かなければいけないとされていますが、今であれば、飛行機・新幹線で遅くとも2日ぐらいでは合流しそうでしょうか(引っ越しの準備などの問題はありますが)。

また、トレードに伴う引っ越しがある場合には、200万円の補助が出るとされています。

第25条(選手による契約解除) 選手は次の場合解約通知書をもって、本契約を解除することができ選手は次の場合解約通知書をもって、本契約を解除することができる。る。
(1)本契約による参稼報酬、その他の支払いが約定日から14日を超えて履行されない場合。
(2)球団が選手の所属するチームを正当な理由なく、年度連盟選手権試合に引き続き6試合以上出場させることができなかった場合。

第26条 (球団による契約解除)
球団は次の場合所属する球団は次の場合所属するコミッショナーコミッショナーの承認を得て、本契約を解の承認を得て、本契約を解除することができる。除することができる。
(1)選手が本契約の契約条項、日本プロフェッショナル野球協約、これに附随する諸規程、球団および球団の所属する連盟の諸規則に違反し、または違反したと見做された場合。
(2)選手が球団の一員たるに充分な技術能力の発揮を故意に怠った場合。

選手・球団それぞれから契約を解除できる場合が定められています。
選手からは給与が支払われない場合、14日支払いが遅れただけで契約が解除できるとされていますが、現在ではほぼそのような状況がありえないでしょう。
球団からは、NPBが定める諸々の規定に基づき契約が解除できるとされていますが、例えば犯罪を犯して刑事罰を受けた場合などが、想定されます。

第27条 (ウエイバー)
球団が参稼球団が参稼期間中、球団の都合、または選手の傷病のため本契約を解除しようとするときは、日本プロフェッショナル野球協約に規定されたウエイバーの手続きを採った後でなければ解約することはできない。
ウエイバーの手続きは次の通りとする。
(1)球団はコミッショナーコミッショナーへ、ウエイバーの公示を請求しなければならない。
(2)コミッショナーから全球団にウエイバーが公示されたとき、これらの球団は本契約の譲渡を申し込むことができる。申し込み優先順位、ならびに契約譲渡金は日本プロフェッショナル野球協約による。
(3)コミッショナーはウエイバーが公示されたことを選手へすみやかに通告する。
(4)選手がウエイバー手続きによる移籍を拒否した場合は、資格停止選手となる。
(5)すべての球団が譲渡を申し込まないときは、日本プロフェッショナル野球協約に従い本契約が解除される。

日本のプロ野球ではトレードの期限が原則7月末までとされています。一方で、ウェーバー制度がないと、トレード期限終了後であっても、特定の2球団が共謀して、それぞれが特定の選手との契約を解除するので、それぞれの選手を取り合おうと決めて、事実上のトレードをすることができてしまうために、これを防ぐ意味があると言われています(ウェーバー公示をされた場合には、全球団に獲得のチャンスができます)。

第28条 (解約と報酬)
契約が解除された場合は、稼働期間中1日につき、第3条に約定された参参稼報酬の金額の300分の1に相当する金額に消費税及び地方消費税を加算した金額が報酬として支払われ、かつ選手の居住地までの旅費が支払われる。ただし、本契約が球団の都合、または本契約にもとづく稼づく稼働に直接原因する選手の傷病によって解約されたときは、、選手は参稼報酬の全額を受け取ることができる。

選手が契約を解除された場合でも、契約が継続していた日数に応じた給与がもらえます。

第29条(協約と裁決)
球団と選手は野球選手の行動および選手と球団との関係にかんする日本プロフェッショナル野球協約およびこれに附随する諸規程を諒承し、かつこれに従うことを承諾し、さらに日本プロフェッショナル野球協約により選任されたコミッショナー、および球団所属連盟会長の指令と裁決に服することを承諾する。
第30条(紛争)
球団と選手はその間における紛争の最終処理を、コミッショナーに一任することを承諾する。また、球団と選手は、日本プロフェッショナル野球協約の規定に従い、提訴しなければならないことを承認する。

選手は、NPBが定める野球協約コミッショナー等の指示に従わなければならず、球団と紛争になった場合も、NPBの仕組の中で解決することとされています。
実際に、選手が球団との紛争を裁判所に持ち込んだ場合、裁判所が適切な判断をするかというのは、法律的には難しい問題があります。

第31条(契約の更新)
球団が選手と次年度の選手契約の締結を希望するときは、本契約を更新することができる。
(1)球団は、日本プロフェッショナル野球協約に規定する手続きにより、球団が契約更新の権利を放棄する意志を表示しない限り、明後年1月9日まで本契約を更新する権利を保留する。次年度契約における参稼報酬の金額は、選手の同意がない限り、本契約書第3条の参稼報酬の金額から、同参稼報酬の金額が1億円を超えている場合は40パーセント、 同参稼報酬の金額が1億円以下の場合は25パーセントに相当する金額を超えて減額されることはない。
(2)選手が明年1月10日以後、本契約書第3条の参稼報酬の金額から、同参稼報酬の金額が1億円を超えている場合は40パーセント、同参稼報酬の金額が1億円以下の場合は25パーセントを超えて減額した次年度参稼報酬の金額で本契約の更新を申し入れ、球団がこの条件を拒否した場合、球団は本契約を更新する権利を喪失する。
第32条(参稼報酬調停)
前条により契約の保留が行われ、選手と球団が次年度の契約条件のうち、参稼報酬の金額 にかんして合意に達しない場合、 コミッショナーにたいし、参稼報酬にかんし、日本プロフェッショナル野球協約による調停を求めることが できる。
第33条(保留手当)
前々条による保留が明年1月10日以後におよぶときは、本契約第3条に約定された報酬の365分の1の25パーセント に消費税及び地方消費税を加算した金額 を1日の手当として、明年1月10日以後の経過日数につき、1か月ごとに、球団はこれを選手に支払う。

ニュース等で流れるいわゆる契約更改について定められています。
ニュースではよく「野球協約の制限を超える減額」と言われますが、球団と選手との間の契約でも同様に減額制限が定められています。あまりに減額幅が大きすぎると、翌年に払わなければいけない税金も含め選手の生活が苦しくなりすぎることを考慮しているものと考えられます。
但し、あくまで契約ですので、球団・選手間でこの契約内容に反する合意をすることは妨げれませんので、多額の年俸をもらっていながらあまりに活躍出来なかった場合には、選手の側も制限を超える減額に納得して応じているという面もあると思います。
もっとも、これはあくまで選手が、球団側の評価やファンの目線を踏まえて任意で応じているものに過ぎませんので、選手側がこのような減額に応じなければいけない理由はありません。球団側としては、当然、想定したよりも全然活躍してくれなかったということがありうることをわかりながら、年俸を定めています。

第34条(承認)
本契約はコミッショナーの承認によって、その効力を発生する。なおコミッショナ
ーによって本契約の承認が拒否された場合、本契約は無効となる。

契約について、コミッショナーの承認を必要とされている点は、実際には形式的なものになってしまっていると思われますが、本来は、球団と選手にとってあまりに好ましくない条項が入れられるのを防止する目的があったと考えれます。

第35条(任意引退選手)
選手が参稼期間中または契約保留期間中、 引退を希望する場合、所属球団にたいし引退したい理由を記入した申請書を提出する。球団は、当該選手が提出した申請書に球団としての意見書を添付し、 コミッショナー に提出する。その選手の引退が正当なものであるとコミッショナーが判断する場合、その選手の引退申請は日本プロフェッショナル野球協約の第78条(1)の復帰条件を付して受理され、コミッショナーによって任意引退選手として公示され、選手契約は解除される。

任意引退とは、その時点の所属球団に保有権が残ったままの状態でなされる引退のことです。
そのような不自然な引退がある意味は、選手自身が自ら引退だといって何の制限もなく自由に所属球団との契約を終わらせることができてしまうと、その後、やっぱり引退をやめるといって、他の球団に自由に移籍することが可能になってしまい、戦力均衡を図ろうとしているNPBの制度に合わなくなってしまうためです。
やっぱり引退をやめるという場合は、原則として所属球団に戻らなければなりません。もっとも、球団との交渉で、自由契約にしてもらうことは可能です。

以上

日本野球連盟(NPB)統一契約書の解説(前半)

日本野球連盟(NPB)統一契約書(2018年版)の内容を解説致します。

第1条(契約当事者)
第2条 (目的)
第3条 (参稼報酬)
第4条(野球活動)
第5条(非公式試合の報酬)
第6条(支払の限界)
第7条(事故減額)
第8条(用具)
第9条(費用の負担)
第10条(治療費)
第11条(障害補償)
第12条(健康診断)
第13条(能力の表明)
第14条(トレーニングの怠慢)
第15条(振興事業)
(16条以下は、後半で解説)

 第1条 (契約当事者)

[球団会社名](以下「球団」という)と[選手名](以下「選手」という)とを、本契約の当事者として以下の各条項を含む・・・・・・年度野球選手契約を締結する。

第2条 (目的)
選手がプロフェッショナル野球選手として特殊技能による稼働を球団のために行なうことを、本契約の目的として球団は契約を申し込み、選手はこの申し込みを承諾する。

 契約締結の一般的な内容が記載されています。

 第3条 (参稼報酬)

球団は選手にたいし、選手の2月1日から11月30日までの間の稼働にたいする参稼報酬として金・・・・・・円(消費税及び地方消費税別途)を次の方法で支払う。契約が2月1日以後に締結された場合、2月1日から契約締結の前日まで1日につき前項の参稼報酬の300分の1に消費税及び地方消費税を加算した金額を減額する。ただし期間中に消費税率の改定があった場合、消費税額は新たに適用される消費税率により計算する。

プロ野球選手の球団との契約期間は、シーズン開始前、春季キャンプ初日である2月1日からシーズン終了後の11月30日までとされています。
そのため、キャンプイン初日までに契約更改が終わらなかった場合、法的には契約がない状態のままキャンプに参加することになります(いわゆる自費参加)。そして、契約日数が減る分、契約日数がフルある場合と比較して、形式的には選手の年俸報酬が減ることになってしまいます。
年俸については球団との交渉になるため、実際に不利益となるかは別ですが、選手としてキャンプイン前に契約を終わらせたいという気持ちを抱く一つの要因になるかとは思います。

第4条 (野球活動) 選手は・・・・・・年度の球団のトレーニング、非公式試合、年度連盟選手権試合ならびに球団が指定する試合に参稼し、年度連盟選手権試合に選手権を獲得したときは日本選手権シリーズ試合に参稼し、また選手がオールスター試合に選抜されたときはこれに参稼することを承諾する。

選手には、シーズン、日本シリーズ、オールスターはもちろん、その他球団が指定する試合へ参加する義務があります。

第5条 (非公式試合の報酬) 選手が年度連盟選手権試合終了の日から本契約満了の日までの期間に球団の非公式試合に参稼するとき、球団はその試合による純利益金の40パーセントを超えない報酬を参稼全員に割り当て、選手はその分配金を受け取る。

日本シリーズ終了後の非公式試合に参加する際に、選手が分配金をもらえることが記載されています。

第6条 (支払の限界) 選手は実費支弁の場合を除き本契約に約定された以外の報酬をその名目のいかんを問わず球団が支払わないことを承諾する。ただし、日本プロフェッショナル野球協約において認容される場合はこの限りでない。

球団は、統一契約書に記載された年俸だけ支払えばよい、ということが確認として記載されています。

第7条 (事故減額) 選手がコミッショナーの制裁、あるいは本契約にもとづく稼働に直接原因しない傷病等、自己の責に帰すべき事由によって野球活動を休止する場合、球団は野球活動休止1日につき第3条の参稼報酬の300分の1に消費税及び地方消費税を加算した金額を減額することができる。ただし、傷病による休止が引き続き40日を超えない場合はこの限りでない。

選手が、所属選手としての活動以外が理由で活動できなくなった場合で、その期間が40日以上になった場合、選手の年俸が減額されることになります。刑事事件を起こして、逮捕・勾留された場合等はこれに該当します。

第8条 (用具) 野球試合およびトレーニングに要する野球用具のうち、球団はボールを負担し、また常に2種類のユニホーム(ジャンパーを含み靴を除く)を選手に貸与する。選手はその他の必要なすべての用具を自弁する。

レーニングに要する用具について、ボールと、2種類のユニフォーム(靴は除く)を球団が選手に貸与し、それ以外の用具については選手個人が用意することとされています。

個人負担の分については、実際には、球団とつながりの深いメーカーや、個人としてメーカーとスポンサー・用具提供契約を締結しているのが一般的です。

第9条 (費用の負担) 選手が球団のために旅行する期間、球団はその交通費、食費、宿泊料を負担する。

遠征に係る交通費、食費、宿泊料をはチームが負担することとされていあmす。

第10条 (治療費) 選手が本契約にもとづく稼働に直接原因する障害または病気に罹り医師の治療を必要とするとき、球団はその費用を負担する。

球団としての活動の中で負った怪我等の治療費については、球団が負担するとされています。

第11条 (障害補償) 選手が本契約にもとづく稼動に直接原因として死亡した場合、球団は補償金5000万円を法の定める選手の相続人に支払う。また、選手が負傷し、あるいは疾病にかかり後遺障害がある場合、6000万円を限度としてその程度に応じ補償金を選手に支払う。
身体障害の程度を14等級に区分し、その補償金額を次の通りとする。
第1級 6,000万円 第2級 5,400万円 第3級 4,800万円
第4級 4,200万円 第5級 3,600万円 第6級 3,000万円
第7級 2,520万円 第8級 2,120万円 第9級 1,640万円
第10級1,200万円 第11級 920万円 第12級 600万円
第13級 440万円 第14級 240万円
等級は労働基準法施行規則第40条「障害補償における障害の等級」に規定された等級と同じ。

球団としての活動の中で死亡したり、後遺症が残る怪我を負った場合、補償金が支給するとされています。選手は、基本的には個人事業主の立場ですが(なお、選手会労働組合法に言う組合とされてはいます)、故障等については、労災(労働災害)の考えが採りいれられています。

第12条 (健康診断) 選手は野球活動を妨げ害するような肉体的、または精神的欠陥を持たないことを表明し、球団の要求があれば健康診断書を提出することを承諾する。選手が診断書の提出を拒否するとき、球団は選手の契約違反と見做し適当な処置をとることができる。

選手は、球団から要求があれば診断書等を提出しなければならないとされています。実際には、故障を逐一球団には報告していない選手がほとんどだとは思いますが、逆に、球団から診断書の提出等を求められた場合には応じなければなりません。

第13条 (能力の表明) 選手は野球選手として特殊の技能を所有することを表明する。本契約がこのような特殊の技能にかかわる故、本契約の故なき破棄は相手方にたいして重大な損害を与えるものであり、その損害賠償の請求に応じる義務のあることを選手と球団は承認する。

少し古い言葉づかいになっていますが、要するに、もはや選手としてプレーできない重大な故障を抱えている場合等に、これを隠して契約を更新したりするのを禁止する目的の条項だと考えられます。

 第14条 (トレーニングの怠慢) 選手が球団のトレーニングまたは非公式試合の参稼に際し、球団の指示に従わず監督の満足を得るに足るコンディションを整え得ないとき、球団の要求によりこれを調整しなければならない。この場合すべての費用を選手が負担することを承諾する。

選手が自らのコンディションを整える義務を負っていることが定められています。

第15条 (振興事業) 選手は野球本来の稼働のほか、球団および日本プロフェッショナル野球組織の行なう振興活動に協力することを承諾する。

 選手は、野球をプレーする以外にも、球団やNPBが定める振興活動に参加しなければならないとされています。球団の活動についていえば、ファン感謝デー等がこれに当たると考えられます。

 

16条以下の解説は、後半に記載しています。

日本サッカー協会選手契約書(統一契約書)の解説(後編)

Jリーグは、各クラブと選手との間で締結する契約書のひな型として、統一契約書とよばれる「日本サッカー協会選手契約書」を作成しています。
この契約書の、2021年6月時点のものの内容について、解説します。

第1条 〔誠実義務〕
第2条 〔履行義務〕
第3条 〔禁止事項〕
第4条 〔報 酬〕
第5条 〔費用の負担〕
第6条 〔休 暇〕
第7条 〔疾病および傷害〕    以上、前編で解説
第8条 〔選手の肖像等の使用〕  以下、今回解説
第9条 〔クラブによる契約解除〕
第10 条 〔選手による契約解除〕
第11 条 〔制 裁〕
第12 条 〔有効期間および更新手続き〕
第13 条 〔修 正〕
第14 条 〔準拠法〕
第15 条 〔紛争の解決〕
第16 条 〔保 管〕

第8条 〔選手の肖像等の使用〕
① クラブが本契約の義務履行に関する選手の肖像、映像、氏名等(以下「選手の肖像等」という)を報道・放送において使用することについて、選手は何ら権利を有しない。
② 選手は、クラブから指名を受けた場合、クラブ、協会およびリーグ等の広告宣伝・広報・プロモーション活動(以下「広告宣伝等」という)に原則として無償で協力しなければならない。
③ クラブは、選手の肖像等を利用してマーチャンダイジング(商品化)を自ら行う権利を有し、また協会、リーグ等に対して、その権利を許諾することができる。
④ 選手は、次の各号について事前にクラブの書面による承諾を得なければならない。
(1) テレビ・ラジオ番組、イベントへの出演
(2) 選手の肖像等の使用およびその許諾(インターネットを含む)
(3) 新聞・雑誌取材への応諾
(4) 第三者の広告宣伝等への関与
⑤ 第3項において、選手個人単独の肖像写真を利用した商品を製造し、有償で頒布する場合、または前項の出演もしくは関与に際しての対価の分配は、クラブと選手が別途協議して定める。

 クラブが選手の競技活動に関連する肖像権を管理する権原を有しており、選手がクラブの広告宣伝に協力しなければならないことが定められています。
また、選手がマスコミ等の取材に対応するのにも、事前の書面の承諾が必要とされています。
もっとも、選手も、クラブ所属の選手である前に一個人ですので、選手の私的な活動に制約が及ばないのは当然のことですが、昨今では、私的な活動であるのか競技に関連する活動であるのかといった点が、あいまいな場面が多くなってきています。

第9条 〔クラブによる契約解除〕
① 次の各号のいずれかに該当する事由が選手において発生した場合、クラブは、選手に対し書面で通知することにより、本契約を直ちに解除することができる。
(1) 本契約の定めに違反した場合において、クラブが改善の勧告をしたにもかかわらず、これを拒絶または無視したとき
(2) 疾病または傷害によりサッカー選手としての運動能力を永久的に喪失したとき
(3) 刑罰法規に抵触する行為を行ったとき
(4) 自らの責に帰すべき事由により、本契約の目的に支障をきたす6ヶ月以上の試合出場停止処分を受けたとき
(5) クラブの秩序風紀を著しく乱したとき
② 前項に基づき本契約を解除したクラブは、選手に対し、解除通知の発信した日の属する月までの基本報酬を支払うものとする。

クラブから選手との契約が解除できる場面が定められています。
昨今、いわゆる不祥事が起きた場合にこの条文により契約が解除されますが、 「刑罰法規に抵触する行為を行ったとき」というのは、本来、裁判所で判決が確定しない限り明らかにならないはずですし、クラブ側が用意に契約を解除できるというのは、本来おかしいのではないかと思います。

第 10 条 〔選手による契約解除〕
① 次の各号のいずれかに該当する事由がクラブにおいて発生した場合、選手は、クラブに対し書面で通知することにより、本契約を直ちに解除することができる。
(1) 本契約に基づく報酬等の支払いを約定日から 14 日を超えて履行しないとき
(2) リーグ等が出場を義務づける試合に正当な理由なく連続して3試合以上出場しなかったとき
(3) リーグ等から除名されたとき
② 前項に基づき本契約を解除した選手は、本契約の残存期間分の基本報酬を受け取ることができる。 

 第10条は選手の側からクラブとの契約を解除できる場面が定められています。報酬(いわゆる選手の給料)が14日支払いが遅れると直ちに契約を解除できるとされていますので、この点は、選手の権利が十分に守られています。
2021年6月時点で、セルビアリーグでの浅野琢磨選手の給料未払いによる契約の解除が話題となっていますが、契約書にこういった記載があるのであれば、法律的には難しい話ではないことになります。

第 11 条 〔制 裁〕
選手につき次の各号のいずれかに該当する事由が発生した場合、クラブは、選手に対し、戒告もしくは制裁金またはこれらの双方を課することができる。
(1) 出場した試合において警告、退場または出場停止の処分を受けたとき
(2) クラブの指示命令に従わなかったとき
(3) クラブの秩序風紀を乱したとき
(4) 刑罰法規に抵触する行為を行ったとき

 クラブが選手にいわゆる罰金を科したりすることができる場合が定められています。
試合でイエローカードやレッドカードを受けた場合に、罰金を課すことができるというのは一般的な感覚からすると違和感があります。実際の運用として課されているかは別ですが。

第 12 条 〔有効期間および更新手続き〕
① 本契約の有効期間は、 年 月 日から 年 月 日までとする。
② クラブは、協会の規則に定められた期限までに、選手に対し更新に関する通知を書面により行わなければならない。
③ 前項の通知を怠った場合、クラブには契約を締結する意思がないものとみなし、選手はクラブに対し、移籍リストへの登録を請求することができる。

クラブが契約を更新するか引き延ばすことにより、選手の立場があいまいになってしまうことがないように、クラブが契約を更新できる期限が定められています。
なお、Jリーグでは、契約期間が2年間とされていても、シーズンが終了するごとに新しく契約を結び直すという運用がされています。仮に、不利な契約内容の変更となる場合に、選手の側から納得できないという話をした場合には、紛争になることもありえるところです。

第 13 条 〔修 正〕
本契約は、クラブおよび選手の署名または押印ある文書によってのみ修正され得るものとし、口頭による修正は効力をもたないものとする。
第 14 条 〔準拠法〕
本契約は、日本法によって解釈されるものとする

クラブと選手間の契約に限らず、一般的な契約でもよく定められている内容です。

第 15 条 〔紛争の解決〕
① 本契約の解釈または本契約の履行に関してクラブと選手との間に紛争が生じたときは、クラブおよび選手が、その都度、誠意をもって協議の上解決する。
② 前項の協議を申し入れた後 30 日を経過しても紛争が解決しないときは、クラブまたは選手は、リーグ等または協会の規程の定めにより、リーグ等または協会に紛争解決を求めることができる。

選手とクラブの間で紛争になった場合になったことが定められています。もっとも、契約期間が1年・2年等短い以上、クラブと紛争になると契約を更新してもらえないという結果に至ることが容易に想定されますので、選手の側からクラブへ要求を通していくのには困難もあります。

以上

【スポーツ仲裁】JSAA-AP-2020-005 バドミントンS/Jリーグ加盟不認可の件

1 事案の概要
バドミントンS/JリーグⅠに参加していてたチームBの経営母体が経営破綻したため、別の会社が経営母体を引き継ぎ、選手を加える等してチーム名をXに変更してS/Jリーグに参加しようとしたところ、S/Jリーグへの加盟が認られなかった。
そこで、当該の不認可を取り消すべきであるとして、スポーツ仲裁が申し立てられた。

2 当事者
申立人:2019年にS/JリーグⅠに所属していたチームBを承継したチームX
被申立人:日本バドミントン協会

3 結論
チームXのS/Jリーグ加盟を認めないとの決定を取り消す

4 争点
第1 本案前の争点
(1) 2020 年の S/J リーグⅠ~Ⅲが全試合中止となっていることとの関係で、申立人の請求を認めるべき法的利益は存在するか。
(2) 本仲裁手続において、被申立人に対し新たな決定を求めることをできるか。
第2 本案の争点
(1) 申立人とバドミントンチーム B の同一性
(2) 被申立人が申立人の加盟を認めることについて裁量権を有するか。
(3) 被申立人が以下の理由により申立人の加盟を認めなかったことは「著しく合理性を欠く場合」にあたるか。
ア 同一事業所で複数チームの出場は認めないとのルールに反すること
イ S/J リーグ委員会での審議後にプレスリリースすべきところ、その前にS/J リーグⅠ~Ⅲでの出場を了承されていないのに間違った発表がなされたこと
ウ 選手との雇用契約期間が 2021 年 12 月までとされていること
エ バドミントンチーム B の退会届の提出がなく、経営破綻やチーム移譲の経緯や時期の説明がないこと
(4) 被申立人の重大な手続違反の有無
(5) その他

5 内容
争点はかなり多岐にわたりますが、実態としては、S/Jリーグ側での正式な手続がなされる前の記者会見でチームXが「S/Jリーグに質問できるのか」と問われた際に「そうですね」と回答した点にS/Jリーグ側が不満をもったことから、こじれてしまったものと思われる。
公開されている仲裁判断の内容からだけでは不明な点があるが、経営母体が破綻した場合の承継の仕方について、事前に明確なルールを定めておく必要があります。

日本サッカー協会選手契約書(統一契約書)の解説(前編)

Jリーグは、各クラブと選手との間で締結する契約書のひな型として、統一契約書とよばれる「日本サッカー協会選手契約書」を作成しています。
この契約書の、2021年6月時点のものの内容について、解説します。

第1条 〔誠実義務〕
第2条 〔履行義務〕
第3条 〔禁止事項〕
第4条 〔報 酬〕
第5条 〔費用の負担〕
第6条 〔休 暇〕
第7条 〔疾病および傷害〕
第8条 〔選手の肖像等の使用〕  以下、後半で解説
第9条 〔クラブによる契約解除〕
第10 条 〔選手による契約解除〕
第11 条 〔制 裁〕
第12 条 〔有効期間および更新手続き〕
第13 条 〔修 正〕
第14 条 〔準拠法〕
第15 条 〔紛争の解決〕
第16 条 〔保 管〕

第1条 〔誠実義務〕
① 選手は、公益財団法人日本サッカー協会(以下「協会」という)およびクラブが加盟するリーグ、連盟等(以下「リーグ等」という)の諸規程を遵守するとともにクラブの諸規則を遵守し、本契約を誠実に履行しなければならない。② 選手は、プロ選手として自己の全ての能力を最大限にクラブに提供するため、常に最善の健康状態の保持および運動能力の維持・向上に努めなければならない。
③ 選手は、プロ選手として公私ともに日本サッカー界の模範たるべきことを認識し、日本サッカーの信望を損なうことのないよう努めなければならない。

第1条は選手が守るべき基本的な義務について記載されています。
①は選手がJリーグ等が定めるルールに従わなければならないこと、
②は選手が自己のパフォーマンスを発揮するために生活すべきこと
③は選手がプロ選手としての自覚をもって、サッカーへの信頼を損なわないようにすべきこと
が定められています。

第2条 〔履行義務〕
選手は、次の各事項を履行する義務を負う。
(1) クラブの指定するすべての試合への出場
(2) クラブの指定するトレーニング、合宿および研修への参加
(3) クラブの指定するミーティング、試合の準備に必要な行事への参加
(4) クラブにより支給されたユニフォーム一式およびトレーニングウェアの使用
(5) クラブの指定する医学的検診、注射、予防処置および治療処置への参加
(6) クラブの指定する広報活動、ファンサービス活動および社会貢献活動への参加
(7) 協会から、各カテゴリーの日本代表選手に選出された場合のトレーニング、合宿および試合への参加
(8) 協会、リーグ等の指定するドーピングテストの受検
(9) 合宿、遠征等に際してのクラブの指定する交通機関、宿泊施設の利用
(10) 居住場所に関する事前のクラブの同意の取得
(11) 副業に関する事前のクラブの同意の取得
(12) その他クラブが必要と認めた事項 

 第2条は選手の具体的な義務が定められています。
(1)から(3)(9)は、クラブの指示があれば試合、練習等に参加しなければいけないという基本的なことが記載されています。
(4)から(6)(8)は、プレーするに当たっての指定ウェアの使用や、クラブから指定された医療行為への対応義務等が記載されています。
(7)は日本代表者に選出された場合には、試合・練習に参加しなければならないということが定められています。実際には、怪我等、正当な理由があれば辞退することもできますし、多くの選手にとっては名誉なことであるため、いわれなくても参加するというのが通常かと思います。
なお、選手の中には、年齢等を踏まえ、例えば長谷部選手のように自ら代表引退を表明して、選出しないようにしてもらうといったこともなされているのは、みなさんご存じのところだと思います。
(10)以下はその他の事項が定めれていて、(10)副業に関して事前にクラブの同意を得るということが定められています。
もっとも、SNSその他で、自らコンテンツを発信して対価を受領するという場面のすべてが「副業」に当たるとは考えられず、逐一、同意を得ているという運用はされていないクラブがほとんどかと思われます。

 第3条 〔禁止事項〕
選手は、次の各事項を行ってはならない。
(1) クラブ、協会およびリーグ等の内部事情の部外者への開示
(2) 試合、トレーニングに関する事項(試合の戦略・戦術・選手の起用・トレーニングの内容等)の部外者への開示
(3) 協会のドーピング防止規程に抵触する行為
(4) クラブ、協会およびリーグ等の承認が得られない広告宣伝・広報活動への参加または関与
(5) 本契約履行の妨げとなる第三者との契約の締結
(6) クラブの事前の同意を得ない、第三者の主催するサッカーまたはその他のスポーツの試合等への参加
(7) 試合の結果に影響を与える不正行為への関与
(8) その他クラブにとって不利益となる行為

 第3条は、選手の禁止事項が定められています。
ときおり問題になりますが、(1)(2)でクラブの試合・トレーニングに関連する事項、内部事情等を第三者に話すことが禁止されています。とはいっても、クラブの内側のことがすべて「内部事情」に当たるわけではありませんし、試合結果に関係しうるかといった視点が重要になります。

第4条 〔報 酬〕
クラブは選手に対し、次の報酬を支払う。ただし、当該報酬には消費税を除く、所得税、住民税その他一切の税金を含むものとする。
(1) 基本報酬
・総額 金 円 ( ヶ月分)
(月額 金 円 ただし、 月 は 円 )
(2) 変動報酬、その他の報酬についてはクラブと選手が別途合意した基準による。
第5条 〔費用の負担〕
選手がクラブのために旅行する期間の交通費および宿泊費はクラブが負担する

第4条で、選手が定めるべき報酬額を記載されます(基本的には年棒を決めて、12か月で割って毎月もらう流れになります)。
第5条では、クラブの活動で選手が移動する場合の交通費及び宿泊費はクラブが負担すると定められています。Jリーグという視点でみれば当然ですが、例えば、地域リーグ等であれば、遠征等があったとしても、選手が自腹で負担するということは往々にしてありえることです。

 

第6条 〔休 暇〕
選手は、競技シーズン終了後に連続して2週間以上の休暇を受けることができる。ただし、選手は、休暇を休養の目的に利用しなければならない。

 シーズン終了後の休暇について明確に定められています。Jリーグは通常は1月中旬ごろからシーズン前のキャンプが始まりますが、元旦に行われる天皇杯決勝で試合をしたとしても、この定めに反しない休暇は与えられるということになります。

第7条 〔疾病および傷害〕
① 選手は疾病または傷害に際しては速やかにクラブに通知し、クラブの指示に従わなければならない。
② 本契約の履行に直接起因する選手の疾病または傷害につき、クラブの指定する医師が治療ないし療養を必要と認めた場合、その治療に要する費用は、社会保険の自己負担分に限りクラブが負担する。
③ 前項の疾病または傷害により、選手が一時的に競技不能となった場合、クラブは、その競技不能の期間中、基本報酬を支払わなければならない。ただし、競技不能の期間中に本契約が期間満了その他の理由により終了したときは、その時点でクラブの支払義務は消滅する。

第7条は、選手が怪我をした場合のことが定められています。クラブの指示に従って治療に望むこと、クラブの指定する医師が認めた範囲で治療に要する費用はクラブが負担すること、怪我で試合に出れない期間についても基本報酬は支払ってもらえることが定められています。

 

第8条以下、後半に続きます。