スポーツ弁護士田中尚幸のblog

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日本サッカー協会選手契約書(統一契約書)の解説(前編)

Jリーグは、各クラブと選手との間で締結する契約書のひな型として、統一契約書とよばれる「日本サッカー協会選手契約書」を作成しています。
この契約書の、2021年6月時点のものの内容について、解説します。

第1条 〔誠実義務〕
第2条 〔履行義務〕
第3条 〔禁止事項〕
第4条 〔報 酬〕
第5条 〔費用の負担〕
第6条 〔休 暇〕
第7条 〔疾病および傷害〕
第8条 〔選手の肖像等の使用〕  以下、後半で解説
第9条 〔クラブによる契約解除〕
第10 条 〔選手による契約解除〕
第11 条 〔制 裁〕
第12 条 〔有効期間および更新手続き〕
第13 条 〔修 正〕
第14 条 〔準拠法〕
第15 条 〔紛争の解決〕
第16 条 〔保 管〕

第1条 〔誠実義務〕
① 選手は、公益財団法人日本サッカー協会(以下「協会」という)およびクラブが加盟するリーグ、連盟等(以下「リーグ等」という)の諸規程を遵守するとともにクラブの諸規則を遵守し、本契約を誠実に履行しなければならない。② 選手は、プロ選手として自己の全ての能力を最大限にクラブに提供するため、常に最善の健康状態の保持および運動能力の維持・向上に努めなければならない。
③ 選手は、プロ選手として公私ともに日本サッカー界の模範たるべきことを認識し、日本サッカーの信望を損なうことのないよう努めなければならない。

第1条は選手が守るべき基本的な義務について記載されています。
①は選手がJリーグ等が定めるルールに従わなければならないこと、
②は選手が自己のパフォーマンスを発揮するために生活すべきこと
③は選手がプロ選手としての自覚をもって、サッカーへの信頼を損なわないようにすべきこと
が定められています。

第2条 〔履行義務〕
選手は、次の各事項を履行する義務を負う。
(1) クラブの指定するすべての試合への出場
(2) クラブの指定するトレーニング、合宿および研修への参加
(3) クラブの指定するミーティング、試合の準備に必要な行事への参加
(4) クラブにより支給されたユニフォーム一式およびトレーニングウェアの使用
(5) クラブの指定する医学的検診、注射、予防処置および治療処置への参加
(6) クラブの指定する広報活動、ファンサービス活動および社会貢献活動への参加
(7) 協会から、各カテゴリーの日本代表選手に選出された場合のトレーニング、合宿および試合への参加
(8) 協会、リーグ等の指定するドーピングテストの受検
(9) 合宿、遠征等に際してのクラブの指定する交通機関、宿泊施設の利用
(10) 居住場所に関する事前のクラブの同意の取得
(11) 副業に関する事前のクラブの同意の取得
(12) その他クラブが必要と認めた事項 

 第2条は選手の具体的な義務が定められています。
(1)から(3)(9)は、クラブの指示があれば試合、練習等に参加しなければいけないという基本的なことが記載されています。
(4)から(6)(8)は、プレーするに当たっての指定ウェアの使用や、クラブから指定された医療行為への対応義務等が記載されています。
(7)は日本代表者に選出された場合には、試合・練習に参加しなければならないということが定められています。実際には、怪我等、正当な理由があれば辞退することもできますし、多くの選手にとっては名誉なことであるため、いわれなくても参加するというのが通常かと思います。
なお、選手の中には、年齢等を踏まえ、例えば長谷部選手のように自ら代表引退を表明して、選出しないようにしてもらうといったこともなされているのは、みなさんご存じのところだと思います。
(10)以下はその他の事項が定めれていて、(10)副業に関して事前にクラブの同意を得るということが定められています。
もっとも、SNSその他で、自らコンテンツを発信して対価を受領するという場面のすべてが「副業」に当たるとは考えられず、逐一、同意を得ているという運用はされていないクラブがほとんどかと思われます。

 第3条 〔禁止事項〕
選手は、次の各事項を行ってはならない。
(1) クラブ、協会およびリーグ等の内部事情の部外者への開示
(2) 試合、トレーニングに関する事項(試合の戦略・戦術・選手の起用・トレーニングの内容等)の部外者への開示
(3) 協会のドーピング防止規程に抵触する行為
(4) クラブ、協会およびリーグ等の承認が得られない広告宣伝・広報活動への参加または関与
(5) 本契約履行の妨げとなる第三者との契約の締結
(6) クラブの事前の同意を得ない、第三者の主催するサッカーまたはその他のスポーツの試合等への参加
(7) 試合の結果に影響を与える不正行為への関与
(8) その他クラブにとって不利益となる行為

 第3条は、選手の禁止事項が定められています。
ときおり問題になりますが、(1)(2)でクラブの試合・トレーニングに関連する事項、内部事情等を第三者に話すことが禁止されています。とはいっても、クラブの内側のことがすべて「内部事情」に当たるわけではありませんし、試合結果に関係しうるかといった視点が重要になります。

第4条 〔報 酬〕
クラブは選手に対し、次の報酬を支払う。ただし、当該報酬には消費税を除く、所得税、住民税その他一切の税金を含むものとする。
(1) 基本報酬
・総額 金 円 ( ヶ月分)
(月額 金 円 ただし、 月 は 円 )
(2) 変動報酬、その他の報酬についてはクラブと選手が別途合意した基準による。
第5条 〔費用の負担〕
選手がクラブのために旅行する期間の交通費および宿泊費はクラブが負担する

第4条で、選手が定めるべき報酬額を記載されます(基本的には年棒を決めて、12か月で割って毎月もらう流れになります)。
第5条では、クラブの活動で選手が移動する場合の交通費及び宿泊費はクラブが負担すると定められています。Jリーグという視点でみれば当然ですが、例えば、地域リーグ等であれば、遠征等があったとしても、選手が自腹で負担するということは往々にしてありえることです。

 

第6条 〔休 暇〕
選手は、競技シーズン終了後に連続して2週間以上の休暇を受けることができる。ただし、選手は、休暇を休養の目的に利用しなければならない。

 シーズン終了後の休暇について明確に定められています。Jリーグは通常は1月中旬ごろからシーズン前のキャンプが始まりますが、元旦に行われる天皇杯決勝で試合をしたとしても、この定めに反しない休暇は与えられるということになります。

第7条 〔疾病および傷害〕
① 選手は疾病または傷害に際しては速やかにクラブに通知し、クラブの指示に従わなければならない。
② 本契約の履行に直接起因する選手の疾病または傷害につき、クラブの指定する医師が治療ないし療養を必要と認めた場合、その治療に要する費用は、社会保険の自己負担分に限りクラブが負担する。
③ 前項の疾病または傷害により、選手が一時的に競技不能となった場合、クラブは、その競技不能の期間中、基本報酬を支払わなければならない。ただし、競技不能の期間中に本契約が期間満了その他の理由により終了したときは、その時点でクラブの支払義務は消滅する。

第7条は、選手が怪我をした場合のことが定められています。クラブの指示に従って治療に望むこと、クラブの指定する医師が認めた範囲で治療に要する費用はクラブが負担すること、怪我で試合に出れない期間についても基本報酬は支払ってもらえることが定められています。

 

第8条以下、後半に続きます。